- 君の知らないところで世界は回る -



  変わること。変わらないこと。変わっていく事。それでも世界は回っている…



13日 PM22:00

「…たまには別行動でもいいだろう?」
「ダメです!!絶対に嫌です。」
「…自分の時間がほしくないか…?」
「今のままで十分です!!」
「…基寿…俺は“自分の時間”が欲しい。だから、今度の休日は別々に行動しよう?」
「…悠さん…」
「…だめか?」
「……」

岩瀬は石川の言い分も分かるのだが…。納得できない部分もある…。

「…悠さん…」
「基寿…。別にお前と一緒にいるのが嫌なんじゃないぞ?ただ…」
「ただ?」
「…俺にだって付き合いがあるだろう?」
「えぇ…まぁ…」
「解ってくれるか?」
「…じゃあ、一つだけ条件があります。」
「なんだ?」
「…危険な事はしないで下さい!!この前みたいな事があったら…」
「大丈夫だって。一人じゃないし?心配性だな…」
そう言ってクスリ。と笑う石川であったが…。

石川には前科がある。
一人で出掛けて、ビリーと爆弾犯を捕まえたり…
岩瀬の父親と出会って、暴力団と格闘したり…
とにかく、“一人”で出掛けると、何故か事件に巻き込まれるのだ…
本人の意思とは関係なく。
岩瀬はソコのところが心配の種なのだが…
当の石川は全く気にしていない様子で…

『…悠さん…自分の事を全く分かっていない… ソコがまた魅力なんだろうケド…』

岩瀬の苦悩も知らず、石川は既に休日の予定を立てているようだった…


「そういえば、悠さん“一人じゃない”って…?」
「うっ…。宇崎と約束を…」
「…宇崎さんですか…。だったら俺も一緒でも…」
「いや…宇崎が“岩瀬は連れてくるな!”って…」
「……」
「あの…早く帰ってくるから…。な?」
「はぁ…。解りました。気をつけて行って来てください。何かあれば連絡してくださいね!!」
「分かってるよ…。俺は子供か!?」
「そうじゃないですけど…。俺が落ち着かないんで…お願いします。」
「うん…。分かった…」

以上が休日前の夜の出来事で…


      *  *  *  


14日 AM9:00

「ゴメンな!岩瀬。石川を借りてくぞ。」
「宇崎…“借りてく”って…」
「あはは。じゃあ行ってきます。」
「じゃあ、行ってくるな。岩瀬」
「はい。…早く帰ってきてくださいね」
最後の言葉は石川にだけ聞こえるように囁く。
囁かれた石川は、うっすらと顔を赤くして…
「分かってる…。じゃあな。」
そそくさと宇崎を追いかけた。


「ところで、宇崎…今日は何処に行くんだ?」
「えーっと…。石川は“ホワイトデー”何するんだ…?」
宇崎が恐る恐るという感じで聞いてきた。
が、すっかり“ホワイトデー”を忘れていた石川は逆に驚いている…
そんな石川の様子を見て、宇崎は
「…もしかしなくても、忘れてた…?」
「…うん…」
「…そっか…。じゃあ、一緒に考えよう?俺もまだ何にも考えてないんだ。」
そう言って宇崎は微笑んだ。
「…有り難う、宇崎。」
「こっちこそつき合わせてゴメンね。石川ぐらいしか相談相手が思いつかなくて。」
宇崎は申し訳なさそうに石川を見て、そう言った。
石川はフルフルと頭をふって
「そんな事ないし…。そういえば宇崎と一緒に出掛けるなんて久しぶりじゃないか?」
「そういえば…!」
「こういうのも良いな。」
「そうだね。」
「じゃあ、何から見る?」
「…俺はそんなに詳しくないから…宇崎に任せるよ。」
「うーん…。とりあえずデパートとか…?どこかのショップでもいいし…」
「じゃあ、行こうか?」
「そうだね。」

2人でお店に入り、「あーでもない。こーでもない」と。
散々探して、選んだ物は…
宇崎はおそろいのタイピンで。
石川はおそろいの財布だった―


      *  *  *


14日 PM18:30

「ただいま。」
石川は無事に部屋へと帰りつき、待っているはずの岩瀬に声を掛けた。
が、岩瀬からの返事がない…
石川は不思議に思い、部屋の中をウロウロと探した。が…

「いない…何処に行ったんだ…?」
先ほど帰るとメールを送ったのだが…
肝心の携帯はベットの上にポツンと置き去りにされている。
「意味ないじゃないか…」
石川は携帯を手に取り、ベットに寝転がった。
「…ばか岩瀬…折角早く帰ってきたのに…」
石川はそう呟いて…いつの間にか眠ってしまった―


      *  *  *


14日 PM20:30

『…あったかい…』

石川は、自分が岩瀬の腕の中にいることに気づいた。

「起きましたか…?悠さん」
「…ばか基寿…。遅い…」
「ゴメンナサイ…」
「…折角、早く帰ってきたのに…」
「そうですね…。本当にゴメンナサイ」
「…何処に行ってたんだ…?」
「ちょっとアレクに呼び出されまして…慌てていたので携帯も忘れてました…」
「…何かあったのか?」
「いえ。アレクの私用だったんですけどね…。また今度詳しく話せるようになったら…」
「それまでは秘密なのか?」
「えぇ…。理由も話せなくて…」
「いいよ。アレクの秘密だろ?差し支えない程度でな…」
「すみません。 でも、早かったですね。」
「…お前が“早く帰って来い”って…」
拗ねた石川の言い分に岩瀬は思わずクスクスと笑ってしまう
「…なにが可笑しいんだ?」
むー。となった石川は岩瀬の腕の中から顔を上げ、抱きしめている本人を睨んだ。
「いえ…。俺って幸せモノだな。って…」
「……」
「…おかえりなさい。悠さん」
「…ただいま…」
石川はそう言って岩瀬に抱きついた。


「今って何時だ?」
「もうすぐ21時ぐらいですね。」
「夕飯食べに行かないか?」
「そうですね。…食堂に行きますか?それとも何処か食べに行きますか?」
「…食堂にしようか…?明日も早いし…」
「じゃあ」
そして2人はベットから出て…

「基寿。これ…」
「どうしたんですか?」
「…今日はホワイトデーだろ…だから…」
「え!! 悠さん覚えてたんですか?」
「…そんなに驚くことか…?忘れてたけど…」
「宇崎さんですか?」
「あぁ…。今日はソレを買いに出てたんだ。」
「…どうしよう…凄く嬉しいんですけど…」
岩瀬は真剣に感動している様子で―
石川はそんな岩瀬を見て、微笑む。

『良かった…喜んでくれて…』

ひとしきり感動した岩瀬は「ちょっと待ってくださいね」と言ってゴソゴソとクローゼットから
ラッピングされた袋を取り出す。
そして…
「これは俺からです。バレンタイン有り難うございました。」
と、ニッコリと笑って差し出した。
「俺に…?」
「そうですよ。…開けてください。」
「お前も開けてみろよ。」
「はい。」

2人してガサガサと袋を開ける―

「あ!」
「あ!」
2人で同時に声を上げた。 それは
奇しくも同じブランドの財布と時計だったからで…
2人して顔を見合わせ… 同時に笑う。

「あー。中身が違ってて良かったな!」
「本当に。これも以心伝心ですね!」
「チガウだろ?」
「いえいえ…。実は俺も財布にしようかと思ったんですよ?」
「そうなのか?」
「えぇ…。でも、時計が気に入ったんで…」
「実は俺もこの時計とどっちにしようかと思ったんだけどな…」
「そうなんですか?」
「あぁ…。好みが似てきたのかな?」
「だといいですね!そういうのスッゴク嬉しい。」
「そうだな…。」
「これだと“おそろい”でも余り気にせずに持てますね。」
「うん…。」
「じゃあ明日から早速。」
気の早い岩瀬の言動に石川はクスクスと笑って見ていたが…

「あ!ご飯!」
「早く行かないと!!」
「今晩は何だろうな?」
「なんでしょうか…?」

と。他愛ない会話をしながら部屋を出て行った。
ベットの上に貰ったプレゼントを並べて置いて―

今までは余り気にせず過ごしてきたイベントも
岩瀬と恋人同士になってから重要な意味を持つようになってきた…。
そんなチョットした変化のお話。


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はい。ホワイトデーのお話です。が…。
悠さんは岩瀬と一緒に過ごすようになって
かなりイベント事に興味が出てきたんでは?
『岩瀬が知らない間でも悠さんの世界は変化していく。』
そんな事を思ったので。

06.03.09


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